マスタリングアシスタント API
libsonare は、レンダリング済み音声だけでなく判断根拠を扱いたいアプリ向けに、JSON を返すマスタリング補助 API を 3 つ提供します。ローカル DSP 解析のみで動作し、アップロードも外部モデルも使いません。UI 表示やレポート保存に使える構造化 JSON を返します。アシスタントは指定したプリセットを出発点にし、省略時は streaming を使います。
「LUFS」「True Peak」「クレストファクター」「トーナルバランス」に馴染みがなければ、先に マスタリングとは? と メーターの読み方 を読んでください。本ページは用語を前提に、JSON の仕様に絞って説明します。
「アシスタント」は自動仕上げボタンではない
ここでのアシスタントは、音源を測定し、なぜその処理が妥当そうかを JSON で説明する補助 API です。実際の音作りは、提案をユーザーが確認・調整し、別のレンダリング API に渡して行います。
最初に組み込む場合は、次の順で読むと分かりやすくなります。
masteringAudioProfile(...)で、元音源の状態をユーザーに見せる。masteringAssistantSuggest(...)で、編集可能なマスタリングチェーンのたたき台を作る。- ユーザーが提案を確認・調整してからレンダリングする。
masteringStreamingPreview(...)で、配信プラットフォームが音量をどう扱うか説明する。
アシスタントの位置
アシスタントは説明と提案を行い、あなたの代わりに決定はしません。よい流れは、ソースをプロファイル→方向を提案→ユーザーが調整→レンダリング→ストリーミング各社での再生をプレビュー、です。最終判断は耳で行ってください。JSON は UI の材料であって、耳の代わりではありません。
3 つのヘルパーは、UI 上では別々のボタンとして考えると分かりやすくなります。
| ボタン | ユーザーが期待すること | ヘルパー |
|---|---|---|
| ソースを解析 | 「このファイルの状態を教えてほしい」 | masteringAudioProfile |
| 出発点を提案 | 「編集できる初期設定を入れてほしい」 | masteringAssistantSuggest |
| 配信を確認 | 「YouTube / Podcast などで音量がどう扱われるか知りたい」 | masteringStreamingPreview |
このページで身につくこと
このページを読むと、次のことを判断・実装できるようになります。
- ソースプロファイル、チェーン提案、レンダリング、配信プレビューを別々の UI ステップとして扱える。
- JSON を返す 3 つのヘルパーをパースし、どのフィールドが測定値で、どれが提案かを区別できる。
- ユーザー調整を残したまま、アシスタントの提案を
masteringChainのレンダリングへ渡せる。 - これらのヘルパーがリモート自動マスタリングではなく、ローカル DSP 解析である理由を説明できる。
3 つの API の概要
| ステップ | JavaScript | Python | 戻り値 |
|---|---|---|---|
| ソースを調べる | masteringAudioProfile(samples, sr) | mastering_audio_profile(...) | 測定プロファイル |
| チェーンを提案 | masteringAssistantSuggest(samples, sr, params) | mastering_assistant_suggest(...) | レンダリング可能なチェーン設定 + 根拠 |
| 配信をプレビュー | masteringStreamingPreview(samples, sr, platforms) | mastering_streaming_preview(...) | プラットフォーム別の正規化 |
3 つとも JSON 文字列を返します。JSON.parse(JS)または json.loads(Python)で解析してください。スキーマは C・Node・Python・WASM バインディングで同一です。PyPI 版 sonare CLI でも sonare mastering-profile・sonare mastering-suggest・sonare mastering-streaming として同じ JSON を標準出力に得られます。
3 つにはそれぞれ、1 本のバッファではなく左右のペアを受け取るステレオ版があります。返す JSON スキーマは同じなので、このページの内容は両方にそのまま当てはまります。モノラル版では不十分になる場面についてはステレオ素材を参照してください。
| ステップ | モノラル | ステレオ |
|---|---|---|
| ソースを調べる | masteringAudioProfile | masteringAudioProfileStereo |
| チェーンを提案 | masteringAssistantSuggest | masteringAssistantSuggestStereo |
| 配信をプレビュー | masteringStreamingPreview | masteringStreamingPreviewStereo |
3 つのヘルパーは、それぞれ別の問いに答えます。
| ヘルパー | 答える問い | 測定か提案か |
|---|---|---|
masteringAudioProfile | 「この元音源はどんな状態か?」 | 測定のみ |
masteringAssistantSuggest | 「どんなチェーンを出発点にするとよさそうか?」 | プロファイルに基づく提案 |
masteringStreamingPreview | 「配信側でどれくらい上げ下げされるか?」 | ラウドネス測定に基づく配信シミュレーション |
import { init, masteringAudioProfile, masteringAssistantSuggest, masteringStreamingPreview } from '@libraz/libsonare';
await init();
const profile = JSON.parse(masteringAudioProfile(samples, sampleRate));
const suggestion = JSON.parse(masteringAssistantSuggest(samples, sampleRate, { preset: 'pop', targetLufs: -14, ceilingDb: -1 }));
const preview = JSON.parse(masteringStreamingPreview(samples, sampleRate, [
{ name: 'YouTube', targetLufs: -14, ceilingDb: -1 },
{ name: 'Podcast', targetLufs: -16, ceilingDb: -1 },
]));import { masteringAudioProfile, masteringAssistantSuggest, masteringStreamingPreview } from '@libraz/libsonare-native';
const profile = JSON.parse(masteringAudioProfile(samples, sampleRate));
const suggestion = JSON.parse(masteringAssistantSuggest(samples, sampleRate, { preset: 'pop', targetLufs: -14, ceilingDb: -1 }));
const preview = JSON.parse(masteringStreamingPreview(samples, sampleRate, [
{ name: 'YouTube', targetLufs: -14, ceilingDb: -1 },
{ name: 'Podcast', targetLufs: -16, ceilingDb: -1 },
]));import json
import libsonare as sonare
profile = json.loads(sonare.mastering_audio_profile(samples, sample_rate=sr))
suggestion = json.loads(sonare.mastering_assistant_suggest(
samples, sample_rate=sr, params={"preset": "pop", "targetLufs": -14, "ceilingDb": -1}))
preview = json.loads(sonare.mastering_streaming_preview(samples, sample_rate=sr, platforms=[
{"name": "YouTube", "targetLufs": -14, "ceilingDb": -1},
{"name": "Podcast", "targetLufs": -16, "ceilingDb": -1},
]))sonare mastering-profile source.wav
sonare mastering-suggest source.wav --preset pop --params targetLufs=-14,ceilingDb=-1
sonare mastering-streaming source.wav \
--platforms '[{"name":"YouTube","targetLufs":-14,"ceilingDb":-1},{"name":"Podcast","targetLufs":-16,"ceilingDb":-1}]'型付きの結果
ヘルパーは JSON 文字列を返しますが、宣言された型がパース後の形を持っています。TypeScript では masteringAudioProfile が TypedJson<MasteringAudioProfile>、masteringAssistantSuggest が TypedJson<MasteringAssistantResult>、masteringStreamingPreview が TypedJson<MasteringStreamingPreviewResult> を返します(ステレオ版も同じ型です)。TypedJson<R> は実行時には単なる string で、JsonResult<J> がその結果型を取り出すので、形を書き直さずにパース結果へ型を付けられます。
import { masteringAudioProfile, type JsonResult } from '@libraz/libsonare';
const profile: JsonResult<ReturnType<typeof masteringAudioProfile>> = JSON.parse(
masteringAudioProfile(samples, sampleRate),
);
profile.spectral.midRmsDb; // number
profile.defects.measured; // booleanMasteringAssistantResult.profile は平坦な MasteringAssistantProfile(無音またはゲート未満の入力では integratedLufs が null)、chainConfig は MasteringChainConfigDocument(version: 1 | 2)で、配信プレビューの各行の integratedLufs は number | null です。Python は MasteringAudioProfile、MasteringAssistantResult、MasteringStreamingPreviewResult を libsonare の TypedDict として宣言しています。
短いクリップ: profile と suggest は動くが、意味のある結果には実際のスペクトル成分が必要
masteringAudioProfile と masteringAssistantSuggest は、重なり合う窓で STFT(短時間フーリエ変換)解析を行います。既定の nFft は 48 kHz で 2048 サンプルで、入力レートに合わせて窓長を換算します。有効な空でないバッファは 1 窓分より短くても受理しますが、スペクトルの判断材料は限られます。短いクリップは拒否せず、長さについての注意を表示してください。
Node と WASM は空バッファ、非有限サンプル、不正なサンプルレートを RangeError、型が違うバッファを TypeError で拒否します。これらの引数エラーは isSonareError では検出できません。空の選択範囲は呼び出し前に確認し、コードつきのライブラリエラーには isSonareError を使います。masteringStreamingPreview も有効な短いバッファを受け付けます。platforms が空リストなら、組み込みの既定値(Spotify、Apple Music、YouTube)を使います。
import { masteringAudioProfile } from '@libraz/libsonare';
const ANALYSIS_WINDOW_SEC = 2048 / 48000; // おおよその窓の時間。品質の目安です
const shortClip = samples.length / sampleRate < ANALYSIS_WINDOW_SEC;
if (samples.length === 0) {
// 解析前に音声を選択するよう案内します。
} else {
const profile = JSON.parse(masteringAudioProfile(samples, sampleRate));
if (shortClip) {
// 成功はしているので、UI では低信頼度の結果として表示する
}
}masteringAudioProfile — ソースを測る
入力の読み取り専用の要約です。どれだけ大きいか、スペクトル全体にエネルギーがどう広がっているか、どれだけダイナミックか、任意の不具合検出が何を見つけたかを示します。何も処理しません。
任意の params は JS 風/Python 風のどちらの名前も受け付けます: nFft/n_fft(既定 2048)、hopLength/hop_length(既定 512。2 つとも 48 kHz でのサンプル数で、入力のレートに換算され、帯域レベルはレートをまたいで揃うよう正規化されます)、truePeakOversample/true_peak_oversample(既定 4)、detectDefects/detect_defects(既定 false)です。
True Peak でオーバーサンプリングする理由
保存されたサンプルの位置は固定されていますが、帯域制限された波形を再構成するとサンプル間でピークが高くなることがあります。ここでは 4 倍の補間フィルターでサンプル間ピークを推定します。truePeakDb はそのフィルターによる再構成波形の近似値で、個々のコンバーターのアナログ出力を測った値ではありません。4 倍でも、補間した点のあいだにピークが残ることがあります。BS.1770 は、4 倍のメーターが 1 dB 未満の範囲で低く読む(最悪の場合でおよそ 0.7 dB、ナイキスト周波数に近い成分で起きる)ことに触れており、納品時のシーリングを 0 dBTP より下に置く理由のひとつになっています。倍率を上げると推定が締まりますが、CPU 負荷も増えます。
この結果は、元音源を説明するために使います。合否判定ではありません。たとえば「すでに大きい」「暗い」「密度が高い」「アタックが多い」といった事実を UI に出すためのものです。
| すること | しないこと |
|---|---|
| ラウドネス、True Peak、クレストファクター、スペクトル、ダイナミクス、任意の不具合を測る | 音声を変更しない |
| レンダリング前に UI へ表示する材料を返す | 最終設定を単独では決めない |
例は合成した 4 秒ループ(キック、ハイハット、パッドをソフトクリップしたもの)のプロファイルで、数値はあくまで例示です。
{
"durationSec": 4,
"bpm": 119.87,
"bpmConfidence": 0.76,
"loudness": {
"integratedLufs": -9.47,
"lraLu": 0.02,
"truePeakDb": -1.94,
"crestFactorDb": 6.22
},
"spectral": {
"subRmsDb": -29.0, "lowRmsDb": -9.29, "lowMidRmsDb": -15.2, "midRmsDb": -25.5,
"highMidRmsDb": -43.0, "highRmsDb": -41.44, "airRmsDb": -38.54,
"centroidHz": 1100.33, "flatness": 0.0017, "rolloffHz": 2327.98
},
"dynamics": { "shortTermLufsStd": 0.009, "attackDensity": 3.75, "sustainRatio": 0.997 },
"defects": { "measured": false }
}defects は省略した形です。detectDefects を有効にしないと measured は false で、ほかの不具合フィールドも測定値ではなく既定値のまま含まれます。
| グループ | フィールド | 意味 |
|---|---|---|
loudness | integratedLufs | 全体のラウドネス(EBU R128) |
lraLu | ラウドネスレンジ。時間方向のラウドネス変動 | |
truePeakDb | サンプル間ピークを含む True Peak | |
crestFactorDb | ピーク対 RMS の差。大 = パンチ、小 = 密度(クレストファクター) | |
spectral | subRmsDb … airRmsDb | 帯域ごとのエネルギー(sub → air)。ノイズ系フィールドと同じ平均二乗の規約による dBFS で、フルスケールの正弦波はその帯域で −3.01 dBFS になる |
centroidHz | スペクトルの「重心」。明るさの目安 | |
flatness | 0 = トーン的、1 = ノイズ的 | |
rolloffHz | スペクトルの振幅の 85% がそれより下に収まる周波数(フレーム平均) | |
dynamics | attackDensity | 打撃的な立ち上がりが固定の下限を超えたオンセットの 1 秒あたりの数。持続音は 0 になる |
sustainRatio | 持続的か過渡的か | |
defects | object | 不具合のカウンターと測定値。detectDefects を有効にしない場合は measured が false |
スペクトル帯域の読み方
*RmsDb のフィールドは低域から高域へ並びます。
| フィールド | 範囲 | おおよその中身 |
|---|---|---|
subRmsDb | 20〜60 Hz | 重低音、キックの基音 |
lowRmsDb | 60〜250 Hz | 低音と低域の温かみ |
lowMidRmsDb | 250〜500 Hz | 胴鳴り、こもり |
midRmsDb | 500 Hz〜2 kHz | ボーカル、多くの楽器の芯 |
highMidRmsDb | 2〜6 kHz | 存在感、アタック、耳障りさ |
highRmsDb | 6〜12 kHz | 明瞭さ、歯擦音、シンバル |
airRmsDb | 12 kHz〜ナイキスト | 高域の空気感 |
これらの値は、プロファイルのノイズ系フィールドと同じ平均二乗の規約による dBFS です。そのため、ノイズフロアや他の帯域と同じ尺度で読めます。フルスケールの 1 kHz 正弦波はその帯域で −3.01 dBFS(mid 帯域で実測 −3.03)になり、ほかの帯域では −49 dBFS 以下です。上のループで lowRmsDb: -9.29 が最大なのは、キックとパッドがこの帯域にあるからです。さらに音楽のスペクトルはもともと高域に向かって下がるため、通常のマスターならほぼ例外なく air は low よりはるかに低く出ます。帯域どうしを見比べると、どの曲もほとんど「暗め」と判定してしまいます。暗め/明るめは、リファレンストラックや過去のレンダリング結果の同じ帯域と比べて判断してください。
ラウドネスレンジ・アタック密度・サステイン比とは?
- ラウドネスレンジ(LRA、単位 LU):体感ラウドネスが曲全体でどれだけ変動するか。値が大きいほど、はっきり静かになったり大きくなったりします(ダイナミックなクラシック曲)。小さいほど、ほぼ一定の音量です(密度の高い EDM マスター)。「LU」(ラウドネス単位)は LUFS と同じ尺度で、絶対値ではなく振れ幅として測ります。LRA は 3 秒のショートタームの読みから計算するので、曲の長さの素材を表す値です。3 秒の窓は数秒より速い変化を平均で消してしまい、数秒のクリップからは重なり合った読みがわずかしか得られません。短いクリップの LRA は目安として扱ってください。上の 4 秒のループの 0.02 LU は、レベルが変わらないことを示すだけで、曲にダイナミクスがないという意味ではありません。
- アタック密度:1 秒あたりおおよそ何回、鋭いノート/ドラムのオンセットが起こるか。打撃的な立ち上がりが固定の下限を超えたオンセットだけを数えるので、持続音は 0 になります。高い=忙しく打撃的、低い=まばらまたは持続的。イベント最大値を基準に測り、最も大きいイベントを除外します。除外数は 10 秒ごとに 1 つ、最大 2 つで、10 秒未満では何も除外しません。
- サステイン比(0〜1):素材が長く伸びた音(1 に近い)に支配されているか、短いバーストやアタック(0 に近い)に支配されているか。アタック密度とは別に(オンセットではなく RMS 包絡から)測られますが、傾向としては逆向きに動きます。
- 短時間 LUFS の標準偏差:瞬間ごとのラウドネスがどれだけ揺れるか。値が大きいほどレベルが落ち着かず、ゼロに近いほど非常に安定して保たれています。
これらは測定値であって評価ではない
crestFactorDb が 5.8 でも「悪い」わけではなく、信号を記述しているだけです。プロファイルはソースを理解し、何を変えるか判断するために使い、合否スコアとしては使わないでください。
masteringAssistantSuggest — チェーンを提案
プロファイルを土台に、そのままレンダリングできるマスタリングチェーンと、人が読める根拠を提案します。第 3 引数に出発点のプリセットと意図(preset、targetLufs、ceilingDb など)を渡します。
受け付けるキーは preset、targetPlatform/target_platform、targetLufs/target_lufs、ceilingDb/ceiling_db、enableRepair/enable_repair、preferStreamingSafe/prefer_streaming_safe、speechMonoAmount/speech_mono_amount です。preset と targetPlatform は名前を渡し、それ以外は数値または真偽値を渡します。これ以外のキーは名前を挙げて拒否され(unknown mastering assistant param: bogus)、サンプルを載せるリクエストオブジェクトの未知のキーは TypeError になります。enableRepair を指定しても、きれいなパーカッションでハム、クラックル、クリックが報告されることはありません。繰り返すキックはハムの候補にならず、クラックルとクリックは局所的な過渡のレベルを上回る位置でだけ数えられます。
任意の意図キーの働き
preset は出発点にするチェーンを選び、省略時は streaming になります。アシスタントは音源からプリセットを推測しません。ジャンル用のプリセットでなければならず、5 つのレストレーション用プリセットは拒否されます。targetPlatform は、固有の規則があるプラットフォームについて、対応する値を明示していない場合だけラウドネスを適用します。受け付ける名前の一覧は masteringPlatformNames() で取得できます。
targetPlatform | ラウドネス目標 | True Peak シーリング |
|---|---|---|
broadcast | −23 LUFS | −1 dBTP |
podcast | −16 LUFS | −1 dBTP |
club | −9 LUFS | −0.3 dBTP |
cd | −9 LUFS | −0.3 dBTP |
club と cd の行は音の大きいマスターの慣例で、公開された仕様ではありません。CD という形式自体にはラウドネスのターゲットがありません。streaming、youtube、audiobook、cinema も受け付けますが、プリセットのターゲットとシーリングは変更しません(既定の streaming プリセットは −1 dBTP のもとで −14 LUFS を目指します)。enableRepair は、ソースに不具合があるときに、masteringRepairAnalyze と同じ選択でクリーンアップ段(declick、denoise など)を有効にします。declip 段が提案されるのは、サンプルが同じレベルに張り付いた区間があり、かつそのレベルより大きい音がどのチャンネルにもない場合だけです(共有のしきい値がクリップしていない音まで書き換えてしまうため)。モノラル入力にも同じ規則が適用され、その場合 explanation は declip withheld と表示します。preferStreamingSafe は、リペアを有効にしたときにストリーミング向けの denoise 推定器を選びます。speechMonoAmount(0〜1)は、speech プリセットの 120 Hz モノメーカー・クロスオーバーより下にあるサイド成分をモノラルへ寄せる量です。
このヘルパーは「根拠つきのプリセット生成」と考えると分かりやすいです。すぐレンダリングできる出発点を一式返しますが、想定ワークフローはユーザーが編集できる形です。
| 出力の一部 | 使い方 |
|---|---|
chainConfig.params | UI コントロールへ展開する、または masterAudio の上書き値として渡す |
explanation | なぜ各段が有効化・調整されたかを表示する |
preset 入力 | アシスタントを呼ぶ前にベースプリセットを選ぶ |
profile | レポート内で提案を自己完結させる |
{
"chainConfig": {
"version": 1,
"params": {
"eq.tilt.enabled": true,
"eq.tilt.tiltDb": 0.5,
"dynamics.transientShaper.enabled": true,
"dynamics.compressor.enabled": true,
"saturation.exciter.enabled": true,
"stereo.imager.enabled": true,
"loudness.enabled": true,
"loudness.targetLufs": -14,
"loudness.ceilingDb": -1
}
},
"explanation": [
"base preset: pop",
"target loudness and ceiling applied from AssistantConfig"
],
"profile": { "integratedLufs": -9.47, "truePeakDb": -1.94, "crestFactorDb": 6.22, "...": "平坦化したプロファイル" }
}| フィールド | 意味 |
|---|---|
chainConfig.params | 提案チェーン全体をフラットなドット記法キー(stage.processor.param)で表したもの。*.enabled は JSON のブール値(true/false)です。masterAudio の上書き値が受け付けるキーと同一なので、提案をそのままレンダリングできます。 |
explanation | 各判断の平易な理由。UI に表示して、なぜその選択になったかを示してください。 |
profile | ソースプロファイルの平坦化コピー。提案が自己完結します。 |
params オブジェクトは既定チェーン全体
上の例は省略版です。実際の params マップは、選択したプリセットのチェーンにあるすべてのパラメータを含みます。リペア、EQ、ダイナミクス、サチュレーション、ステレオ、True Peak リミッター、ラウドネス段などが対象で、それぞれに全パラメータと enabled フラグが付きます。アシスタントは指定したプリセットを土台に、ターゲットとシーリングを適用します。speech プリセットではディエッサーと、低域のサイド成分をまとめるモノメーカー段(120 Hz のクロスオーバー)を有効にし、enableRepair を有効にすると測定した不具合に対応するリペア段を有効にします。マップは疎な差分ではなく、チェーン全体を上書きできるスナップショットとして扱ってください。
提案をマスターとしてレンダリングする
chainConfig.params は masterAudio の上書きキーを使うので、提案のレンダリングは 1 回の呼び出しです。ベースプリセットを明示し、アシスタントと masterAudio に同じ名前を渡します。params マップ全体(上に示した数キーだけでなく、チェーン全体です)を上書き値として渡します。
const basePreset = 'pop';
const suggestion = JSON.parse(masteringAssistantSuggest(samples, sampleRate, { preset: basePreset, targetLufs: -14, ceilingDb: -1 }));
const mastered = masterAudio(samples, sampleRate, basePreset, suggestion.chainConfig.params);
console.log(mastered.report.before.integratedLufs, '→', mastered.report.after.integratedLufs);
console.log(mastered.report.bandEnergyDeltaDb.length); // 32 周波数帯const basePreset = 'pop';
const suggestion = JSON.parse(masteringAssistantSuggest(samples, sampleRate, { preset: basePreset, targetLufs: -14, ceilingDb: -1 }));
const mastered = masterAudio(samples, sampleRate, basePreset, suggestion.chainConfig.params);
console.log(mastered.report.before.integratedLufs, '→', mastered.report.after.integratedLufs);
console.log(mastered.report.bandEnergyDeltaDb.length); // 32 周波数帯base_preset = "pop"
suggestion = json.loads(sonare.mastering_assistant_suggest(
samples, sample_rate=sr, params={"preset": base_preset, "targetLufs": -14, "ceilingDb": -1}))
mastered = sonare.master_audio(
samples, sample_rate=sr,
preset_name=base_preset,
overrides=suggestion["chainConfig"]["params"],
)
assert mastered.report is not None
print(mastered.report.before.integrated_lufs, "→", mastered.report.after.integrated_lufs)
print(len(mastered.report.band_energy_delta_db)) # 32 周波数帯sonare mastering-suggest source.wav --preset pop \
--target-lufs -14 --ceiling-db -1 --config-out suggestion-chain.json
sonare mastering source.wav --chain-config suggestion-chain.json \
--report mastering-report.json -o master.wav戻り値にはトップレベルのラウドネス値に加え、処理前後を UI で比較するための report が入ります。処理前後の各値は、統合・最大モーメンタリ・最大ショートターム LUFS、True Peak、ラウドネスレンジです。レポートには適用ゲイン、最大ゲインリダクション、ピーク上限によってラウドネスターゲットが制限されたかどうか、処理後と処理前の差を示す 32 帯域のエネルギー差も含まれます。CLI に --report を渡すと、同じ形を snake_case キーで書き出します。両 CLI とも --chain-config と --params は 1 つのパラメータ一覧として読み込まれます。ドキュメントと --params にまたがって同じフィールドが 2 通りの綴りで指定されると、両方のキー名を示して拒否されます。ドキュメントの <stage>.enabled: false は、--params がその段のフィールドを設定しても、ステージを無効のまま保ちます。
suggest と render の間でユーザーに編集させる
意図したパターンは、chainConfig.params を編集可能な UI コントロールへ展開し、ユーザーに値を調整させてから、編集後のマップを masterAudio へ渡すことです。explanation[] の文字列は、各段を有効にした理由を短く添える表示に向いています。
masteringStreamingPreview — 配信をプレビュー
ソースと対象プラットフォームのリストを与えると、各社のラウドネス正規化があなたの音声をどう再生するかを報告します。レンダリングの前に、どのサービスで音量が下げられるか、シーリングに余裕があるかを確認できます。
入力 platforms は StreamingPlatform オブジェクト(name、targetLufs、ceilingDb)です。
このヘルパーは「配信側が何をするか」のレポートとして読むと分かりやすくなります。
| 状態 | 意味 |
|---|---|
normalizationGainDb が負 | プラットフォームが音量を下げる |
normalizationGainDb が正 | プラットフォームが音量を上げる可能性がある |
ceilingRisk が true | そのゲインでピークがプラットフォームのシーリングを超える可能性がある |
{
"platforms": [
{ "name": "YouTube", "integratedLufs": -9.47, "truePeakDb": -1.94, "normalizationGainDb": -4.53, "ceilingRisk": false },
{ "name": "Podcast", "integratedLufs": -9.47, "truePeakDb": -1.94, "normalizationGainDb": -6.53, "ceilingRisk": false }
]
}| フィールド | 意味 |
|---|---|
integratedLufs / truePeakDb | 測定したソース値(どのプラットフォームでも同じ) |
normalizationGainDb | ターゲットに合わせるためプラットフォームが適用するゲイン。負は音量を下げられることを意味する |
ceilingRisk | 正規化が信号をプラットフォームのシーリングを超えて押し上げる場合 true |
ストリーミングでは大きい=良いではない
−9.5 LUFS のマスターは YouTube で「大きく」はなりません。プラットフォームは normalizationGainDb(ここでは −4.5 dB)を適用してすべての曲をほぼ同じラウドネスに揃えるので、過度なコンプはラウドネス上の利点なしにダイナミクスを犠牲にするだけです。配信ターゲット と ラウドネスマッチング を参照してください。
ステレオ素材
上の 3 つのヘルパーは 1 本のバッファを受け取ります。ステレオトラックに使うには 0.5 * (left + right) のダウンミックスを渡すことになりますが、このダウンミックスはペアの中立な代用にはなりません。左右で異なる成分は加算時に部分的に打ち消し合うため、実際のプログラムより小さく測定されます。
誤差の大きさは左右の相関の度合いで決まります。無相関のピンクノイズペア(48 kHz、4 秒)で測ると、ステレオ経路が −12.43 LUFS と報告するのに対し、ダウンミックスは −18.45 LUFS で、6.03 dB の過小評価です。左右が同一のペアでは差は 3.01 dB にとどまりますが、この分はすべてステレオ側に由来します。BS.1770 が 2 チャンネルの平均二乗を合算する一方、左右が同一ならダウンミックスは減衰しないからです(0.5 * (L + L) は L そのものです)。無相関ペアで残る約 3 dB が、ダウンミックス側で実際に打ち消し合って失われる分です。広がりのある素材、残響の多い素材、ステレオイメージを強く作り込んだ素材は、大きい方の値に近づきます。
この 1 つの測定値は、そのまま後段へ波及します。
| 過小に読まれるもの | 結果 |
|---|---|
| プロファイルの積分ラウドネス | ソースが実際より小さく見える |
| 提案されるラウドネス段 | 不要なゲインを加える前提でチェーンが組まれる |
配信プレビューの normalizationGainDb | プラットフォームが実際より大きく持ち上げるように見える |
ceilingRisk | このラウドネスから導かれるため、実際にはリスクがあっても安全と読まれうる |
同じ無相関ペアで −14 LUFS のターゲットを見ると、normalizationGainDb はモノラル経路では +4.45 に、ステレオ経路では −1.57 になります。モノラル側の値は、使えるヘッドルームを 6 dB 分そのまま過大に見せています。
したがって、素材が本当にステレオであるときはステレオ版を使ってください。left と right を渡せば、積分ラウドネスは BS.1770 のチャンネル加算で、True Peak は左右の大きい方で、ペアを直接測定します。
import { init, masteringAudioProfileStereo, masteringStreamingPreviewStereo } from '@libraz/libsonare';
await init();
// リクエストオブジェクト形式のみ。これらのエントリポイントに位置引数の形式はありません。
const profile = JSON.parse(masteringAudioProfileStereo({ left, right, sampleRate }));
console.log(profile.loudness.integratedLufs);
// Omitting `platforms` falls back to Spotify / Apple Music / YouTube.
const preview = JSON.parse(masteringStreamingPreviewStereo({ left, right, sampleRate }));import json
import libsonare as sonare
profile = json.loads(sonare.mastering_audio_profile_stereo(left, right, sample_rate=sample_rate))
preview = json.loads(sonare.mastering_streaming_preview_stereo(left, right, sample_rate=sample_rate))変わるのは loudness ブロックだけ
ステレオ版のプロファイルが両チャンネルから測るのは loudness ブロックだけです。積分 LUFS と LRA はチャンネル加算したプログラムから、True Peak は左右の大きい方から求めます。spectral・dynamics とテンポの各フィールドは絶対レベルではなく形と時間構造を表すため、引き続きダウンミックス上で測定されます。これは意図的な設計で、同じ素材に対する masteringAudioProfile の結果とそのまま比較できる状態を保つためです。
masteringAssistantSuggestStereo は masteringAudioProfileStereo を通してプロファイルを取るため、ラウドネス段は 6 dB 低く読まれたダウンミックスではなく、チャンネル加算したプログラムを土台に組まれます。提案のそれ以外の部分、つまりプロセッサの選択と根拠テキストは、モノラル版と同じ形です。
const suggestion = JSON.parse(
masteringAssistantSuggestStereo({ left, right, sampleRate, params: { preset: 'pop', targetLufs: -14 } }),
);関連
- マスタリングプロセッサ:提案が参照するプロセッサ id とプリセット
- マスタリング実装:実際にレンダリングするチェーン経路
- 配信ターゲット · メーターの読み方 · 品質チェックリスト