配信ターゲット
配信ターゲットは、公開先に合わせて決めるラウドネスとピーク安全性の設定です。
デモでは Spotify、YouTube、Apple Music、TikTok、カスタムなど、プラットフォームを想定したターゲットを選べます。これらはあくまで実用的な出発点であり、絶対的なルールではありません。
ラウドネス目標
ラウドネス目標は、処理後ファイルが目指す Integrated LUFS(Loudness Units relative to Full Scale)の値です。LUFS はサンプル値ではなく番組ラウドネスを推定します。Integrated は曲全体にわたるゲート付きの平均です。400 ms のブロックを測り、-70 LUFS の絶対ゲートで残ったブロックの平均より 10 LU 低い位置に相対ゲートを設けます。無音は除外されますが、静かなイントロも相対ゲート以上なら平均に入り、値を下げることがあります。ゲートの詳細は LUFS で説明しています。
| 目標値 | 主な用途 |
|---|---|
-14 LUFS | 多くの音楽リリースで扱いやすい、ストリーミング想定の目標。 |
-16 LUFS | Apple Music 系、ポッドキャスト、スピーチ、ヘッドルームを残したい素材向け。 |
| カスタム | 納品仕様が明確な場合や、別ラウドネスを試聴したい場合。 |
大きければよいわけではありません。目標値が高すぎるとリミッターが働きすぎ、パンチを失ったうえで配信側で下げられることがあります。
目標値を上げても「大きいマスター」にはならない
配信プラットフォームは再生ラウドネスを正規化します。ある点を超えると、目標値を上げてもリミッターが余計に働くだけで再生時のラウドネスは増えず、パンチを失います。ラウドネスマッチング を参照してください。
True Peak シーリング
シーリングは、書き出したファイルの True Peak が到達してよい上限です。dBTP は decibels true peak の略で、サンプルのあいだまで再構成した波形のピークを表します。この値は、保存されたどのサンプル値よりも高くなることがあります。ストリーミング向けの出発点としては -1 dBTP 前後がよく使われます。
リミッターはファイル自体をシーリングの下に抑えますが、配信先の非可逆エンコーダーはその後で波形を変え、ピークを押し上げることがあります。シーリングと 0 dBTP のあいだの差は、そのために残すヘッドルームです。コーデックへの余裕を広く取りたい場合は -2 dBTP など低めに設定します。0 dBTP に近いシーリング(-0.3 dBTP など)は、納品経路が明確で再エンコードされない場合にのみ使います。
リミッターより細かくオーバーサンプリングするメーターでは、シーリングをわずかに上回って読めることがあります。測った余裕の大きさはリミッターの残差についての説明を参照してください。
戻すべきサイン
目標値を上げた直後にキック・スネア・子音が平らに潰れていく場合は、ラウドネスではなく密度のほうを上げすぎています。まずは目標を下げるか、前段のダイナミクスを緩めます。シーリングを上げて回避するとコーデック変換後のクリップリスクが増えるため、最初の解決策にはしないでください。
逆に、目標を下げても音楽的なインパクトがほとんど変わらないなら、余裕を残した設定のほうが安全です。配信プラットフォーム側で下げられる可能性が高いケースでは、少し低めの目標のほうが結果としてパンチを保てます。
ターゲットの選び方
エンジンの targetPlatform の各名前が目指す値は、エンジンの配信ターゲットにまとめています。
公開先から始め、続いて素材を聴きながら判断します。
- もっとも近いプラットフォーム想定のプリセットを選ぶ。
- 過剰な調整をせず、まず一度レンダリングする。
- リミッターがグルーヴやトランジェントの印象を変えすぎていないか確認する。
- マスターが小さく感じる場合、ラウドネスを上げる前に目標値を下げるか、ダイナミクスを緩める。
- JSON レポートを書き出し、目標値・シーリング・チェーン構成を記録しておく。
実装メモ
デモはプラットフォーム選択を LUFS 目標値に変換し、libsonare のラウドネス段に渡しています。True Peak リミッターとラウドネスオプティマイザーは同じシーリング値を共有し、最終ゲインがピーク安全性を超えないようにしています。
書き出されるレポートには、選択中のプリセット、プラットフォーム、目標 LUFS、チューニング値、ソース指標、レンダリング後指標、実行段名が記録されるので、ブラウザでのレンダリング結果を CLI やアプリケーション組み込みの出発点として使えます。
LUFS 目標に到達する前にシーリング制約に当たった場合、実装はピーク安全性を優先します。この状態では目標値を上げても出力ラウドネスが期待通り上がらないことがあります。レポートの適用ゲインと出力 LUFS を併読し、目標設定の問題なのか、前段のダイナミクス/低域コントロールの問題なのかを切り分けて判断します。