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ルーム音響解析 ​

libsonare には、部屋や録音環境の響きを説明するためのルーム音響 API があります。

「残響時間」「インパルス応答」「dB」に馴染みがなければ、先に オーディオ基礎 と 残響時間 を読んでください。本ページは用語を前提に、どの API がどの問いに答えるかに絞って説明します。

このページは、次の目的で使います。

  • 拍手やインパルス応答の録音を測る。
  • 通常の録音から大まかな部屋の傾向を推定する。
  • 単純な部屋寸法からルームインパルス応答を作る。
  • 目標ルームの響きをオフライン効果として音声に適用する。

これは楽曲解析とは別物です。detectBpm(...) や analyze(...) は曲を説明します。ルーム音響 API は、録音空間を説明・合成・適用します。

インパルス応答とは?

インパルス応答(IR)は、拍手や風船破裂音などの短い励振音に対して、部屋がどう響いて減衰するかを記録したものです。サインスイープの録音は、解析前に既知のスイープ信号で逆畳み込みして IR に変換します。IR は楽曲や励振信号そのものではなく「部屋の反応」を見るため、RT60 や明瞭度のようなルーム音響指標を測りやすくなります。

ROOM · IMPULSE RESPONSEIDLE
インパルス応答 — 部屋はどう減衰するか

シューボックス寸法から合成した室内インパルス応答を、dB のエネルギー減衰として表示します。部屋を広げる・吸音を下げると残響が伸び、RT60(60 dB 減衰までの時間)も伸びます。再生でその部屋の手拍子を試聴できます。

部屋の大きさ
7 m
吸音
0.16

初出の用語

  • 等価ルーム は、測定された響きに近い単純な部屋モデルです。実際の部屋を正確にスキャンした結果ではありません。
  • RIR は room impulse response の略で、部屋が短い音にどう反応するかを表す音声サンプルです。
  • シューボックス形状 は、長さ・幅・高さで表す直方体の部屋モデルです。
  • DRR は直接音対残響音比です。音源から直接届く音と、部屋で反射して届く音の比を表します。
  • ルームモーフィング は、目標ルームの響きを音作り効果として足す処理です。残響を取り除く残響除去とは別物です。

以下に登場する各指標の詳しい解説はルーム音響の用語集を参照してください。

ブラウザで試す

空間ルームスキャナー のデモは、この一連の処理をすべてローカルで実行します。録音をドロップする(またはサンプルルームを選ぶ)と、推定された形状・RT60・明瞭度・音源までの距離をインタラクティブな 3D シーンとして再構成します。再構成した部屋はコンボリューション用のインパルス応答として、推定値は JSON として保存できます。

このページで身につくこと ​

このページを読むと、次のことを判断・実装できるようになります。

  • 入力録音に応じて、インパルス応答解析とブラインド音響推定を選べる。
  • シューボックス寸法からモノラルのルームインパルス応答を合成できる。
  • 録音から等価なルームを推定し、体積、代表寸法、吸音率、DRR、信頼度を読める。
  • ルームモーフィングを音作りの効果として使い、残響除去と混同しない。
  • RT60、EDT、C50、C80、D50、オクターブバンド、信頼度、isBlind を実用上の意味で説明できる。
  • ブラインド推定を認証レベルの測定値として扱う誤りを避けられる。
  • JavaScript、Python、CLI から同じ音響解析ワークフローを呼び出せる。

どちらを使うか ​

入力使う API期待できること
測定済み IR、拍手、風船破裂音、スターターピストル音、スイープ由来 IR などの短い励振音analyzeImpulseResponse(...) / analyze_impulse_response(...)最も精度が出ます。減衰が部屋由来である前提です。
通常の音楽・音声録音で、単独のインパルスがないdetectAcoustic(...) / detect_acoustic(...)ブラインド推定です。順位付けや UI 上の目安向きで、認証測定向きではありません。
録音や IR から実用的な等価ルームモデルがほしいestimateRoom(...) / estimate_room(...)体積、代表寸法、DRR、バンド別吸音率/RT60、信頼度。
ルーム寸法と音源/聴取位置があるsynthesizeRir(...) / synthesize_rir(...)指定した部屋と位置から、再現性のあるモノラル RIR を作ります。
録音を目標ルームの響きへ寄せたいroomMorph(...) / room_morph(...)オフラインの音作り効果です。既存の残響を取り除く処理ではありません。

analyzeImpulseResponse(...) と detectAcoustic(...) は AcousticResult を返します。結果には、全帯域の値とオクターブバンドごとの配列が含まれます。estimateRoom(...) は RoomEstimateResult、synthesizeRir(...) は RirResult、roomMorph(...) は RoomMorphResult を返します。モーフ後のサンプルは audio に入り、あわせて目標ルームの合成が報告した診断情報が付きます。

なぜバンド別(オクターブバンド)なのか?

部屋はすべての周波数を均等に吸音するわけではなく、低音は高音より長く響くことがよくあります。解析をオクターブバンド(各バンドでおよそ周波数が倍になる: 125、250、500、1k、2k、4k Hz)に分けると、RT60 や明瞭度を 1 つの平均値ではなくバンドごとに別々に報告できます。1/3 オクターブのサブバンドは、ブラインド推定の内部で使うより細かい分割です。

直接計測とブラインド推定の違い ​

analyzeImpulseResponse(...) は、部屋に短い励振音を入れた後の減衰を直接見ます。拍手、風船破裂音、スターターピストル音、スイープ由来 IR のように、最初の音とその後の残響が分かれている入力に向いています。

detectAcoustic(...) は、通常の音楽や会話から部屋の響きを推定します。入力の中に単独のインパルスがないため、録音の中から「音が止まり、残響だけが自然に減っているように見える区間」を探します。

この違いにより、結果の扱いも変わります。

観点analyzeImpulseResponse(...)detectAcoustic(...)
入力の前提部屋の反応が分かりやすい音楽や声が混ざっている
主な用途測定、比較、検証UI の目安、タグ付け、警告
信頼度入力がきれいなら高く扱いやすい入力に左右されるため confidence が重要
低信頼度の意味IR が汚い、短い、クリップしている可能性。または EDT と RT60 が実際に異なる場合(音源に近いマイク、連成した 2 つの部屋)で、スコアはこれを当てはめの失敗と区別できない自由減衰区間が見つからない、または残響以外の要素が混ざっている可能性

自由減衰区間とは、音源が新しい音を出しておらず、部屋の残響だけが自然に小さくなっている区間です。ブラインド推定では、この区間が見つからないと信頼できる値を出せません。

使い方 ​

音響系の関数は sampleRate の既定が 48000 です。必ず録音のレートを渡してください。

typescript
import {
  init,
  analyzeImpulseResponse,
  detectAcoustic,
  estimateRoom,
  synthesizeRir,
  roomMorph,
} from '@libraz/libsonare';

await init();

const measured = analyzeImpulseResponse(irSamples, sampleRate, 6, 30); // バンド数, フィット幅(dB)
console.log(measured.rt60, measured.edt, measured.c50, measured.c80);

const blind = detectAcoustic(roomRecording, sampleRate, {
  nOctaveBands: 6,            // オクターブバンド数
  nThirdOctaveSubbands: 24,   // ブラインド推定で使う 1/3 オクターブ相当のサブバンド数
  minDecayDb: 30,             // 有効な減衰として扱う最小 dB
  noiseFloorMarginDb: 10,     // ノイズフロアに対する余裕 dB
});
console.log(blind.confidence, blind.isBlind);

const estimate = estimateRoom(roomRecording, sampleRate, {
  referenceAbsorption: 0.15,
  nOctaveBands: 6,
});
console.log(estimate.volume, estimate.lengthM, estimate.widthM, estimate.heightM);
console.log(estimate.drrDb, estimate.confidence, estimate.bandAbsorption, estimate.rt60Bands);

// 使えない形状(例: acoustic.source_outside_room)は、コード付きの SonareError を投げる
const { rir, diagnostics: rirWarnings } = synthesizeRir({
  lengthM: 7,
  widthM: 5,
  heightM: 3,
  sourceX: 1,
  sourceY: 1,
  sourceZ: 1.2,
  listenerX: 5,
  listenerY: 4,
  listenerZ: 1.7,
  absorption: 0.2,
  sampleRate,
});

const { audio: morphed, diagnostics } = roomMorph(dryVoice, sampleRate, {
  lengthM: 12,
  widthM: 9,
  heightM: 4,
  wet: 0.6,
});
typescript
import {
  analyzeImpulseResponse,
  detectAcoustic,
  estimateRoom,
  synthesizeRir,
  roomMorph,
} from '@libraz/libsonare-native';

const measured = analyzeImpulseResponse(irSamples, sampleRate, 6, 30); // バンド数, フィット幅(dB)
console.log(measured.rt60, measured.edt, measured.c50, measured.c80);

const blind = detectAcoustic(roomRecording, sampleRate, {
  nOctaveBands: 6,            // オクターブバンド数
  nThirdOctaveSubbands: 24,   // ブラインド推定で使う 1/3 オクターブ相当のサブバンド数
  minDecayDb: 30,             // 有効な減衰として扱う最小 dB
  noiseFloorMarginDb: 10,     // ノイズフロアに対する余裕 dB
});
console.log(blind.confidence, blind.isBlind);

const estimate = estimateRoom(roomRecording, sampleRate, {
  referenceAbsorption: 0.15,
  nOctaveBands: 6,
});
console.log(estimate.volume, estimate.lengthM, estimate.widthM, estimate.heightM);
console.log(estimate.drrDb, estimate.confidence, estimate.bandAbsorption, estimate.rt60Bands);

// 使えない形状(例: acoustic.source_outside_room)は、コード付きの SonareError を投げる
const { rir, diagnostics: rirWarnings } = synthesizeRir({
  lengthM: 7,
  widthM: 5,
  heightM: 3,
  sourceX: 1,
  sourceY: 1,
  sourceZ: 1.2,
  listenerX: 5,
  listenerY: 4,
  listenerZ: 1.7,
  absorption: 0.2,
  sampleRate,
});

const { audio: morphed, diagnostics } = roomMorph(dryVoice, sampleRate, {
  lengthM: 12,
  widthM: 9,
  heightM: 4,
  wet: 0.6,
});
python
import libsonare as sonare

audio = sonare.Audio.from_file("room-clap.wav")

measured = sonare.analyze_impulse_response(audio.data, audio.sample_rate, n_octave_bands=6, min_decay_db=30.0)
print(measured.rt60, measured.edt, measured.c50, measured.c80)

blind = sonare.detect_acoustic(
    audio.data,
    audio.sample_rate,
    n_octave_bands=6,
    n_third_octave_subbands=24,
    min_decay_db=30.0,
    noise_floor_margin_db=10.0,
)
print(blind.confidence, blind.is_blind)

estimate = sonare.estimate_room(audio.data, audio.sample_rate, n_octave_bands=6)
print(estimate.volume, estimate.length_m, estimate.width_m, estimate.height_m)
print(estimate.drr_db, estimate.confidence, estimate.band_absorption, estimate.rt60_bands)

rir = sonare.synthesize_rir(7.0, 5.0, 3.0, absorption=0.2, sample_rate=audio.sample_rate)
print(rir.sample_rate, len(rir.rir), rir.diagnostics)

morphed = sonare.room_morph(
    audio.data,
    audio.sample_rate,
    12.0,
    9.0,
    4.0,
    wet=0.6,
)
bash
# 通常の録音からのブラインド推定(バンド数・しきい値は既定値)
sonare acoustic room-recording.wav

# インパルス応答モード(拍手/風船破裂音/スターターピストル音/スイープ由来 IR)
sonare acoustic room-clap.wav --ir

# --json で機械可読のサマリを出力
sonare acoustic room-clap.wav --ir --json

# 録音から等価ルームを推定
sonare estimate-room room-recording.wav --json

# 形状からモノラルのルームインパルス応答を合成
sonare synthesize-rir --length 7 --width 5 --height 3 -o room-ir.wav

# 録音を目標ルームへモーフィング
sonare room-morph dry.wav --length 12 --width 9 --height 4 --wet 0.6 -o morphed.wav

Python の Audio からは、計測系の呼び出しをインスタンスメソッドとして使えます: audio.analyze_impulse_response(...) と audio.detect_acoustic(...)。synthesizeRir・estimateRoom・roomMorph は、Python ではモジュールレベル関数、WASM パッケージではスタンドアロン関数です。

等価ルームの推定 ​

estimateRoom(...) は、録音から等価ルームを推定します。正確な実空間を復元するものではなく、実用上のモデルとして扱ってください。通常録音には部屋の減衰がはっきり出ていないことがあるため、必ず confidence を確認します。結果には volume、lengthM、widthM、heightM、drrDb、confidence、bandAbsorption、rt60Bands が入ります(Python ではスネークケースの名前です)。

オプション既定値意味
mode'auto''auto' はインパルス状の入力をインパルス応答解析へ、それ以外をブラインド経路へ回します。'blind' と 'impulse_response' は経路を固定します。名前だけを受け付け、数値は TypeError です。
aspectHintLw / aspectHintLh1 / 1長さ : 幅、長さ : 高さの比です。widthM = lengthM / aspectHintLw、heightM = lengthM / aspectHintLh になります。
referenceAbsorption0.15部屋の大きさを決める壁の平均吸音率です(下記)。[0.01, 0.99] に丸められます。
preferEyringtrue減衰の逆算に Eyring(true)と Sabine(false)のどちらを使うか。
nOctaveBands, minDecayDb, noiseFloorMarginDb6, 30, 10detectAcoustic(...) と同じです。0 は既定値を選びます。

estimateRoom(...) が実際に解いているもの

解いているのは、与えた形状と吸音率の前提のもとでの大きさだけで、形状そのものは復元しません。

  • aspectHintLw / aspectHintLh を渡さないと、3 つの寸法は同じ値(立方体)で返ります。ヒントを渡していないのに、lengthM・widthM・heightM を復元した比率として見せないでください。
  • 1 つの減衰が決めるのは V / A(A は等価吸音面積)の比で、体積と吸音率を別々には決められません。形状を固定すると、表面積は線寸法の 2 乗、体積は 3 乗で増えるため、大きい部屋が同じ RT60 を保つには平均吸音率が高くなければなりません。足りない前提を埋めて体積を決めるのが referenceAbsorption です。Sabine では報告される体積がこの前提のおよそ 3 乗に比例し、既定の Eyring では対応する -ln(1 − α) の項を使うので、3 乗則は Sabine での近似です。録音どうしを比べるときは固定しておきます。

前提は拒否されずに丸められるため、範囲外の値でも推定は成功し、丸めた値で計算されます。下限側では、報告される体積が 3 桁ずれます。

referenceAbsorption: 0 は既定値を意味する

Node、WASM、Python、C のいずれも、明示した 0 を既定値(0.15)として読みます。RT60 が 0.5 秒の 2 秒間の合成減衰では、指定を省略した場合も 0 を渡した場合も 28.1 m³ と報告され、0.01 では 0.0067 m³ になります。下限が欲しいときだけ 0.01 と書いてください。

結果の読み方 ​

フィールド意味
rt60残響が 60 dB 減衰するまでの推定時間。大きいほど響きが長い部屋です。
edt最初の 10 dB に当てはめた初期減衰時間。体感上の残響感に近いことがあります。独立に当てはめられるのはインパルス応答モードのときだけです。
c50音声向けの明瞭度。高いほど子音や会話が聞き取りやすい傾向があります。インパルス応答モード専用です。
c80音楽向けの明瞭度。直接音・初期反射が後期残響に対してどれだけ強いかを示します。インパルス応答モード専用です。
d50定義度。最初の 50 ms に含まれるエネルギーの割合(0〜1)です。インパルス応答モード専用です。
rt60Bands, edtBands, c50Bands, c80Bands各測定値のバンド別配列。Python では snake_case 名も使えます。
confidence0 から 1 の信頼度。低い場合は、十分にきれいな減衰が取れていません。
isBlind / is_blindインパルス応答前提ではなくブラインド推定で得た結果かどうか。

ブラインド解析が返すのは減衰だけです

detectAcoustic(...) は常にブラインド経路で動き、その経路が復元するのは後期減衰の速さだけです。c50・c80・d50 は NaN で返り、c50Bands と c80Bands は空で返ります。直接音の到達時刻がなく、0 から −10 dB の独立した当てはめができないため、edt は NaN です。edtBands は要求したバンド数を保ちますが、全要素が NaN になります。明瞭度の数値や本来の EDT が必要なときは、手拍子・破裂音・逆畳み込み済みのスイープ由来 IR に対して analyzeImpulseResponse(...) を呼んでください。また、これらのフィールドを UI に表示する前に NaN を必ず確認してください。

RT60・EDT・C50/C80・D50 は何を測る?

いずれも、音が止まったあとに空間でどう減衰するかから求める標準的なルーム音響指標です。

  • RT60:残響が 60 dB 減衰するまでの秒数。「どれだけ響くか」を表す代表値で、小さな部屋なら約 0.3 秒、大聖堂なら数秒になります。
  • EDT(早期減衰時間):減衰の最初の部分から測った減衰速度を 60 dB 降下に換算したもの。体感上の響きの豊かさは、RT60 より EDT の方がよく一致することが多いです。
  • C50 / C80(明瞭度):初期エネルギー(最初の 50 ms / 80 ms)と、その後の残響との比を dB で表したもの。高いほど明瞭で直接音的です。C50 は会話、C80 は音楽の基準です。
  • D50(定義度):全エネルギーのうち最初の 50 ms に到達する割合(0〜1)。高いほど直接音的で、ぼやけが少なくなります。

実用上の注意 ​

信頼できる値が必要なら、きれいなインパルス応答を録音してください。

  • 静かな環境で録る。
  • クリップしないレベルにする。
  • インパルス後の無音を十分に残す。
  • 解析前に不要なノイズをトリムする。

ブラインド推定は「このテイクは響きすぎているかも」といった比較や警告には便利です。ただし、建築音響の正式な測定値として扱うものではありません。

幾何ベースのルーム音響 ​

ここは、録音を測るだけでなく、部屋モデルを作る・適用する API の説明です。

録音から合成ルームまで
estimateRoomroomGeometryFromEstimatesynthesizeRirsynthesizeRirroomMorph /roomMorphStereo録音ルーム推定ルーム形状自分で決めた形状ルームインパルス応答モーフ後の音声
形状は推定結果からも手書きでも用意でき、どちらも合成器とモーフに渡せます。

synthesizeRir(...) は、直方体の部屋からモノラル RIR を作ります。寸法はメートル、壁は一様な吸音率、音源と聴取位置は部屋の内側の座標で指定します。音源や聴取位置が部屋の外にあるなど、使えない形状は、コード付きの SonareError として例外になります。メッセージは診断コード(例: acoustic.source_outside_room)で始まり、Python では SonareValueError です。正常に返った呼び出しの diagnostics には警告だけが入ります。

roomMorph(...) はオフラインの音作り効果です。合成した目標ルームの響きを足し、既存の残響テールを少し弱めることがあります。この出力を残響除去として扱ったり説明したりしないでください。ルームの響きを足す処理であり、既存の残響を取り除く処理ではありません。

ルームモーフの結果を読む ​

roomMorph(...) は RoomMorphResult を返します。モーフ後のサンプルは audio(入力長に目標ルームの残響テールを足した長さで、足した残響が途中で切れることはありません)、そのサンプルレートは sampleRate、そして目標ルームの合成が結果を出すために変更した内容の一覧が diagnostics です。モーフは synthesizeRir(...) と同じコードで目標ルームを合成するため、同じ警告を報告します。どの警告も「指定したのとは別の部屋でレンダリングされた」ことを意味し、音を聴いただけでは分かりません。分かるのはこの一覧だけです。

code起きたこと対処
acoustic.ism_order_clampedismOrder が安全上限の 12 を超えていたため、上限まで下げられました。12 以下を指定して、要求とレンダリング結果を一致させます。
acoustic.rir_length_clamped部屋本来の応答が上限より長く、テールが切られました。どの上限かはメッセージが示します。maxSeconds、または maxSeconds が 0 のときは RIR の共有リソース上限です。maxSeconds を指定していたなら上げます。指定していないなら、その部屋の減衰は上限に収まらない長さなので、部屋を小さくするか吸音率を上げます。
acoustic.rir_length_flooredmaxSeconds が直接音の到達より前に終わるため、直接音が収まるまで延長されました。結果は要求より長くなります。maxSeconds を上げるか、聴取位置を音源に近づけます。
acoustic.rir_tail_truncatedmaxSeconds が最も長く響く帯域の RT60 より短く、その帯域の 60 dB 減衰を RIR から計測できません。maxSeconds をその帯域の RT60 以上にするか、0 でリソース上限内の自然な長さを選びます。
acoustic.no_late_tail混合時刻の時点で使える拡散テールがなく、目標ルームは初期反射だけになりました。全バンドで吸音率が 0 の完全な剛壁か、逆に吸音が強すぎてクロスオーバーの前にテールが終わっているかのどちらかです。吸音率を両極端から離すか、mixingTimeMs を下げます。

RoomMorphResult にも RirResult にもエラーフラグはありません。生成できないモーフ(不正な形状、部屋の外にある聴取位置、物理的にありえない気象条件)は InvalidParameter として例外になる(synthesizeRir(...) も同様に投げる)ため、diagnostics に入るのは「結果は得られたが注意が要る」警告だけです。分岐は code で行ってください。message は人が読むための文字列で、返ってきたモーフに付く severity はすべて 'warning' です。

この形はどの環境から呼んでも同じです。Node とブラウザは JavaScript API の型 にある RoomMorphResult を返します。Python は RoomMorphResult データクラスを返し、その diagnostics は RirDiagnostic のリストです。C ABI では sonare_room_morph が成功したあとに sonare_last_diagnostic_count() / sonare_last_diagnostic_code(i) からエントリを読めます(C++ API 参照)。sonare room-morph コマンドは各警告を warning: <code>: <message> の形で stderr に出力し、出力ファイルと --json のサマリは stdout 側に残ります。

ステレオのルームモーフ ​

roomMorphStereo({ left, right, sampleRate, ...options })(Python は room_morph_stereo(left, right, sample_rate, length_m, width_m, height_m, ...)、C は sonare_room_morph_stereo、CLI は 2 チャンネルファイルに対する sonare room-morph)は、モノラルではなくステレオ録音をモーフします。roomMorph のオプションをすべて受け取るほか、receiverSpacingM(Python は receiver_spacing_m、CLI は --receiver-spacing)を取ります。目標ルームは、聴取位置をはさんでこの距離だけ離れた 2 本の無指向性レシーバーで聴いた響きとして扱われ、既定は 0.5 m です。(0, 4] m の範囲外の間隔や、長さの異なる左右チャンネルは RangeError(Python では SonareValueError)で拒否されます。

各チャンネルは、自分側のレシーバーの応答とたたみ込まれます。初期反射はレシーバーごとに異なり、後期テールはその距離だけ離れた 2 点の拡散音場コヒーレンスに従うため、低域は左右で相関を保ち、高域は保ちません。結果は { left, right, sampleRate, diagnostics } で、両チャンネルとも入力長に目標ルームの残響テールを足した長さです。diagnostics には上の表と同じコードが入ります。元の残響テールを抑える処理は、音量の大きいほうのチャンネルから求めたゲインを両チャンネルに同じだけ適用するため、抑制によってステレオイメージがずれることはありません。

typescript
const { left: wetL, right: wetR } = roomMorphStereo({
  left, right, sampleRate,
  lengthM: 12, widthM: 9, heightM: 4, wet: 0.6,
  receiverSpacingM: 0.5,
});

モノラルに合算すると、足された響きは約 300 Hz 以上で、両チャンネルが同じ応答を共有した場合より約 3 dB 小さくなります。2 つのテールが同位相で加算されないためです。オフラインのモノラル roomMorph(...) は単一の聴取位置の応答で、レシーバーのペアは置きません。effects.reverb.room と effects.acoustic.roomMorph のインサートは、ステレオストリップでこのペアを使います。どちらかのレシーバーが部屋の外に出る配置は InvalidParameter で拒否されるため、側壁までの距離が間隔の半分(既定では 0.25 m)より近い聴取位置は、モノラルのストリップでも拒否されます。機能カタログの測定済み境界もこれに合わせてあり、listenerX と listenerY には壁の内側に収まる最小値と最大値が載り、lengthM と widthM の最小値はそれに応じて大きくなっています。

間隔が 2 つのテールを帯域ごとにどう変えるかは、間隔を空けたレシーバーとチャンネル間コヒーレンスで実測しています。

推定結果から RIR を合成する ​

estimateRoom(...) の結果は synthesizeRir(...) が受け取る名前(lengthM、widthM、heightM、bandAbsorption)をそのまま使っているので、roomGeometryFromEstimate(...) はそのまま渡せる形状を返します。推定結果には音源や聴取位置が含まれないため、結果側で配置します。合成側の既定の音源とリスナーの位置を、既定の 7 × 5 × 3 m の部屋から推定した寸法へ軸ごとに縮尺した位置です(7 × 5 × 3 m なら既定の配置そのもの)。小さな推定ルームでも両方が室内に収まります。source / listener を { x, y, z }(メートル)で渡すと、その位置が優先されます。結果にはスカラーの absorption(有限なバンドの平均)も含まれ、収束しなかった吸音バンドは bandAbsorption から省かれます。計測できる寸法がない推定(NaN、confidence が 0)は RangeError(Python では SonareValueError)になります。

typescript
const estimate = estimateRoom(roomRecording, sampleRate, { nOctaveBands: 6 });
const geometry = roomGeometryFromEstimate(estimate, {
  source: { x: 1, y: 1, z: 1.2 },
  listener: { x: 2, y: 1.5, z: 1.5 },
});
const { rir } = synthesizeRir({ ...geometry, sampleRate });
python
estimate = sonare.estimate_room(audio.data, audio.sample_rate, n_octave_bands=6)
geometry = sonare.room_geometry_from_estimate(
    estimate, source=(1, 1, 1.2), listener=(2, 1.5, 1.5)
)
rir = sonare.synthesize_rir(**geometry, sample_rate=audio.sample_rate)

壁の吸音率と材質 ​

synthesizeRir(...) と roomMorph(...) は共通のシューボックス形状を取るため、壁の指定フィールドも同じです。壁の指定は、粗い順に 3 段階で表せます。

フィールド型意味
absorptionnumber全バンド一様の壁吸音率。[0, 1] の範囲内である必要があり、受理された値はさらに [0, 0.999] にクランプされます。最も単純なコントロールです。
bandAbsorptionFloat32Array / number[]オクターブバンド別の壁吸音率(125 / 250 / 500 / 1k / 2k / 4k… Hz)。指定すると absorption を上書きします(ただし materialPreset が設定されている場合を除く)。Python では band_absorption。
bandScatteringFloat32Array / number[]バンド別の壁の散乱。指定のないバンドは 0 になります。吸音率のフィールドが選んだ壁材質に対して適用されます。 Python では band_scattering。
materialPreset名前名前付きの壁材質プリセット。'concrete'(コンクリート)、'wood'(木)、'curtain'(カーテン)、'carpet'(カーペット)、'glass'(ガラス)。'none' はプリセットなしです。Python では material_preset。1 つの材質がすべての面を覆うため、できる部屋は極端になります。全面カーペットの部屋は 125 Hz をほとんど吸音しません。'none' 以外のプリセットは bandAbsorption と absorption の両方より優先されます。bandScattering とは優先順位を競いません。

優先順位が決めるのは吸音率だけです。高い順に、'none' 以外の materialPreset がすべてに優先し、それ以外では bandAbsorption(バンド別)が absorption(一様)に優先します。したがって、自分のバンド別吸音率を効かせたいときは materialPreset を 'none'(既定)のままにしてください。

bandScattering はこの優先順位の外にあります。吸音率の優先順位が選んだ壁材質に対して適用されるので、プリセットと散乱配列を同時に渡す指定も成り立ちます。プリセットの吸音率に、指定した粗さが重なります。

散乱配列は常に反映されます

bandScattering が無視されることはありません。materialPreset と併用した場合も同じです。散乱は鏡面的な初期反射からエネルギーを拡散させるため、混合時刻と初期/後期のバランスが動きます。つまり、渡せばレンダリング結果は変わります。synthesizeRir(...) や roomMorph(...) に、実際には効かせたくない散乱配列を渡しているコードがあるなら、プリセットで打ち消されることを当てにせず、配列そのものを外してください。

範囲外の吸音率はクランプされず拒否されます

スカラーの absorption が非有限値、または [0, 1] の範囲外の場合は InvalidParameter で失敗します。受理された値は [0, 0.999] にクランプされます。完全吸音の端点では Eyring の項 -ln(1 - absorption) が特異になるためです。bandAbsorption と bandScattering も同じ検証を通るため、不正な値の扱いは壁の指定フィールドのどれでも同じで、1 つだけが黙って別の部屋を組み立てることはありません。

materialPreset は名前だけを受け付けます。数値は TypeError、未知の名前は RangeError(Python では SonareValueError)で、どちらも有効な名前を列挙します。コンクリートとガラスは反射的で高域のテールが残りやすく、カーテンとカーペットは吸音的でテールが短くなります。

typescript
// コンクリートのシューボックス: 明るく長いテール
const concrete = synthesizeRir({
  lengthM: 7, widthM: 5, heightM: 3,
  materialPreset: 'concrete',
  sampleRate,
});

// バンド別の壁指定(6 オクターブバンド)と散乱
const custom = synthesizeRir({
  lengthM: 7, widthM: 5, heightM: 3,
  materialPreset: 'none', // プリセットなし。吸音率は bandAbsorption が決める
  bandAbsorption: [0.1, 0.15, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5],
  bandScattering: [0.1, 0.1, 0.2, 0.2, 0.3, 0.3],
  sampleRate,
});

後期残響モデルとテールのコントロール ​

共通形状には後期テールの挙動も含まれます。RirSynthOptions と RoomMorphOptions のどちらも次を持ちます。

フィールド意味
preferEyring統計的な後期残響モデルの選択。true(既定)は Eyring、false は Sabine を使います。
mixingTimeMs初期/後期の切り替え時刻(ミリ秒)。0 でおおよそ sqrt(volume) ミリ秒を自動選択します。
crossfadeMs混合時刻まわりの等パワークロスフェード幅(ミリ秒)。0 で既定値です。
ismOrder初期反射部の鏡像音源の反射次数。
seed, maxSeconds後期テールの乱数シードと、生成する RIR の最大長。
airAbsorptionEnabled, airTemperatureC, airHumidityPercent反射経路に沿った空気吸収を、後期テールのバンド別 RT60 に加えます。既定は OFF。空気吸収 を参照。

混合時刻は、応答が離散的な鏡像音源の初期反射から決定論的な統計的後期テールへ移る点で、クロスフェードはその境目が聞こえないよう両者をなじませます。Sabine と Eyring は後期テールの背後にある 2 つの古典的な RT60 推定法で、Eyring はより吸音的な部屋で精度が高い傾向があります。

Sabine と Eyring(普段は気にしなくてよい)

どちらも、部屋の大きさと表面の吸音具合から RT60 を予測する古典的な公式です。Eyring は吸音処理がよく効いた部屋でより正確になる傾向があり、Sabine はより古くて単純な方です。特定のリファレンスに合わせる場合を除いて、既定のままで構いません。

鏡像音源の反射とは?

音が壁で反射するとき、各反射は「壁の向こう側にある音源の鏡像コピーから届いた音」としてモデル化できます。ismOrder は、この方法で何回の反射まで計算するかを決めます。次数を上げるほど初期エコーが増えますが、1 つ 1 つは弱くなり、CPU コストも上がります。拡散的な後期テールは別に生成されます。

ルーム合成の実装メモ

synthesizeRir(...) は、鏡像音源法による初期反射と、決定論的な後期テールを組み合わせます。acoustic::RirSynthConfig では、反射次数、Sabine/Eyring の後期テールモデル、シード、RIR の最大長、混合時刻、クロスフェード幅、そして任意の空気吸収の気象条件を指定できます。

空気吸収 ​

空気そのものも音を吸収します。低音よりはるかに高音を吸い、反射が進む距離に応じて損失が積み上がります。次の 3 つのオプションは、その損失を ISO 9613-1 の大気吸収モデルで計算し、後期テールのバンド別 RT60 に加えます。読むのは synthesizeRir(...)、roomMorph(...)、そして形状から RIR を作る effects.reverb.room インサートです。逆方向の estimateRoom(...) は受け取らず、CLI の synthesize-rir / room-morph コマンドにも対応するフラグはありません。

オプション既定受理範囲意味
airAbsorptionEnabledfalseboolean空気吸収項を加えます。OFF のとき RIR はこの機能なしでレンダリングしたものと同一なので、同じ記述の部屋は同じようにレンダリングされ続けます。
airTemperatureC20−273.15 °C より上気温。0 または省略で ISO 基準の 20 °C を選ぶため、0 °C そのものは未指定と区別できません。氷点の部屋は 0.01 で指定してください。吸収量は同じです。
airHumidityPercent500〜100相対湿度。0 または省略で ISO 基準の 50 % を選びます。

気象条件の 2 つは airAbsorptionEnabled が ON のときだけ読まれます。非有限値や範囲外の値は、周囲のジオメトリ検査と同じく範囲へ丸めるのではなく拒否されます。synthesizeRir(...) は acoustic.invalid_air_absorption のコード付き SonareError を投げ、roomMorph(...) は InvalidParameter を投げます。気圧は入力ではなく、モデルは海面気圧で評価されます。

typescript
const hall = synthesizeRir({
  lengthM: 30, widthM: 20, heightM: 12,
  absorption: 0.2,
  airAbsorptionEnabled: true,
  airTemperatureC: 20,        // 0 でも 20 の意味になる
  airHumidityPercent: 30,     // 基準より乾燥: 高域が早く減衰する
  sampleRate,
});

ON にすると主に大きな部屋の高域が短くなり、小さな部屋はほとんど変わりません。この項は周波数だけでなく部屋の容積にも比例して大きくなるためです。乾いた空気や冷たい空気ほど高域をよく吸います。各バンドがどちらへどれだけ動くかは 帯域別の減衰と吸音 で説明しています。

壁の吸音の代わりにはなりません

空気吸収がモデル化するのは、伝搬経路上、つまり空気の中での損失です。境界での損失をモデル化する absorption・bandAbsorption・materialPreset の代わりにはならず、鏡像音源による初期反射にはまったく触れません。変わるのは統計的テールの減衰速度だけです。壁が反射的なせいで高域が鳴りすぎる部屋に必要なのは、より吸音的な壁材です。湿度では直りませんし、空気吸収項が無視できるほど小さい低域は動きません。

ライブ表示や段階的な BPM/キー/コード推定が必要なら リアルタイムとストリーミング を使います。楽曲メタデータが必要なら JavaScript API または Python API を参照してください。

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