明瞭度(C50・C80)と定義度(D50)
明瞭度は、音のエネルギーのうち、音や音節を補強できるほど早く到達する分と、残響のにじみに溶け込むほど遅れて到達する分の割合を測ります。
残響時間は部屋がどれだけ長く鳴るかを示しますが、聞き取れるかどうかは示しません。RT60 が中程度でも、初期エネルギーが優勢なら十分に明瞭になり、後部残響が優勢ならこもります。明瞭度と定義度は、インパルス応答を時間の境界で分け、両側のエネルギーを比べることで、このバランスを数値にします。
明瞭度にはインパルス応答が必要です
C50・C80・D50 を返すのは analyzeImpulseResponse(...) だけです。通常の音楽に対するブラインド解析(detectAcoustic(...))が復元するのは減衰の速さだけで、3 つとも NaN になり、帯域別の c50Bands / c80Bands も空で返ります。明瞭度の数値が必要なときは、手拍子や風船の破裂音を録音するか、サインスイープを録音して既知のスイープ信号で逆畳み込みし、得られた IR を解析器に渡してください。録音したままのスイープは励振信号と部屋の応答を畳み込んだもので、インパルス応答ではありません。
- 初期 0〜50 ms
- C80 が足す 30 ms
- 後期
C50: 音声明瞭度
C50 は、最初の 50 ミリ秒のエネルギーと、それ以降の全エネルギーの比(デシベル)です。
C50 = 10·log₁₀( 初期エネルギー (0〜50 ms) / 後期エネルギー (>50 ms) )
50 ミリ秒は、初期反射が直接音に加わって音節を聞き取りやすくする(にじませない)、おおよその時間窓です。それより遅れて到達するエネルギーは別個の残響として聞こえ、次の音節をマスクします。これは先行音効果(ハース効果)と関係はありますが、同じものではありません。先行音効果は、最初に届いた音が音源の位置の感じ方を決める現象です。50 ms の境界が扱うのは、初期のエネルギーが明瞭さを支えるかどうかです。
- 高い C50(正、数 dB):子音がくっきり保たれ、会話・台詞・講演に向きます。
- 低い C50(負):テールが直接音を覆い、音声がにじんで明瞭度が落ちます。
C80: 音楽明瞭度
C80 は境界を 80 ミリ秒にします。音楽は音声より残響の溶け合いを許容し、むしろ求めることも多いので、初期窓を広げます。
C80 = 10·log₁₀( 初期エネルギー (0〜80 ms) / 後期エネルギー (>80 ms) )
C80 はコンサートホールの標準的な明瞭度指標です。高すぎると音楽が乾いて分析的になり、低すぎると速いパッセージがぼやけるため、ホール設計ではこの値を慎重に整えます。
| C80 | 音楽的な印象 |
|---|---|
| > +4 dB | 乾いて分離がよく近い |
| 0 〜 +4 dB | 明瞭だが部屋に支えられる |
| −2 〜 0 dB | 残響が多く溶け合う |
| < −2 dB | にじんで不明瞭 |
D50: 定義度
定義度(D50)は、同じ 50 ms の分割を比ではなく割合で表します。Deutlichkeit は同じ量を指すドイツ語の原語です。
D50 = 初期エネルギー (0〜50 ms) / 全エネルギー
D50 と C50 は同じ測定の 2 つの見方で、互いに直接変換できます(C50 = 10·log10(D50 / (1 − D50))。D50 が 0.72 なら C50 は約 +4.1 dB です)。libsonare は D50 を 0〜1 の割合として返します。0.72 なら、エネルギーの 72% が最初の 50 ms に到達したという意味で、UI では慣習的にパーセント表示します。値が高いほどエネルギーの多くが早く到達し、部屋は「明瞭」です。dB の比よりパーセントのほうが直感的だと感じる人も多くいます。
なぜ 3 つとも見るのか
3 つは少しずつ違う問いに答えます。C50 は音声、C80 は音楽、D50 は初期エネルギーの直感的な割合です。話し言葉に最適化した空間(高い C50、高い D50)は、オーケストラに最適化した空間(適度でバランスのよい C80)とは別物です。3 つを並べて見れば、その録音空間がどれだけ鳴るかではなく、何に向くかが判断できます。
libsonare が明瞭度をどう算出するか
libsonare はインパルス応答の二乗を 50 ms と 80 ms の境界の両側で積分して初期エネルギーと後期エネルギーの和を作り、C50 と C80 を初期/後期比の 10·log₁₀ として、D50 を初期/全体の割合として報告します。積分はノイズフロアでの打ち切り点(Lundeby 法で求める。減衰が録音のノイズフロアに達する位置)で止めるため、残響テールの後ろに続く背景ノイズが後期エネルギーに数えられて明瞭度を引き下げることはありません。ここまでの処理はすべてインパルス応答のときだけ走ります。通常の音楽に対するブラインド解析は初期/後期の分割自体を作らず、演奏の隙間に露出したテールの断片へ減衰の速さを当てはめるだけなので、C50・C80・D50 は概算値ではなく NaN として返ります。明瞭度は直接音の到達時刻に依存するため、解析はまず直接音のピークを特定し、それを基準に窓を測ります。直接音の位置を取り違える可能性があるので、信頼度スコアが低いときは C50/C80/D50 を概算として扱ってください。